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T中平蔵氏を含む日本の政治家の何人かから、「これ以上日銀が政府の言うことを聞かないのなら日銀の独立性を剥奪する」という脅迫発言まで飛び出したが、それでも日銀は動揺しなかった。
今の国民の生活が維持されているのである。
クルーグマン流の20013OO%のインフレの話に当時の日銀が乗っていたら、今の我々の生活は滅茶苦茶になっていたであろう。
下手をすれば、日本円は紙屑になり、その混乱から日本のGDPも半分ぐらいになっていたかもしれない。
日銀は、バランスシート不況を解決することはできないけれども、日本の経済状況がこれ以上悪化するのをずっと防ぐという、たいへん重要な役割を果たしてきたのである。
それは2つの意味でまったく報われることのない仕事であった。
一つは前述のように、日銀がどんなに頑張っても不況を克服して景気を良くすることはできないからである。
もう一つは、日銀が体を張って危機を回避してきた結果、ハイパー・インフレや超高金利という危機は発生しなかった。
悲しいかな、危機を未然に回避した人たちは絶対に英雄にはならない。
それどころか、危機を未然に回避した人たちは多くの場合、無知な大衆からボロクソに言われる。
騒いだ割には実際には何も起きなかったからだ。
だから誰もありがたがってくれない。
英雄というのは、危機が発生して多くの犠牲者が出た後に問題を解決した人たちである。
ハリウッドの映画もすべてそのようにつくられている。
これだけ巨額の政府債務がある国がどうなったかという過去の事例を見れば、いま我々が住んでいるゼロインフレ、ゼロ金利の世界はH天国uのようなものである。
それを実現してくれたのが日銀なのである。
国民はこれをまったく理解していないから、福井さんに感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と言った人は一人もいない。
福井総裁自身、ある会合で「(日銀総裁なんて)本当に報われない商売だ。
好きこのんでやるものではない」と洩らしたそうだが、元中央銀行マンで不人気な危機回避が仕事だった私には、その気持ちが百パーセント理解できるのである。
マスコミや経済学界が、「過去にこういう状況になった国の多くはハイパー・インフレに見舞われ、国民の年金も貯金も吹き飛んだ。
日本は、日銀が頑張って正しい政策を採ってくれたから、我々の預金も生活も維持されているのだ」と、声を大にして言わなければいけないのである。
彼らはバランスシート不況の実態を理解せず、景気回復の遅れをすべて日銀の政策ミスに求めた。
それでも日銀はまったく動揺せず正しい政策を続けた。
野党・民主党は「年金を守らなければいけない」とずっと言い続けているが、日本国民の年金を、体を張って守ってきたのは誰よりも日銀だったのである。
S川方明総裁は良い選択であろう。
国民の年金を心配している民主党がずっとS川氏を支持してきたのは正解だったと一言尽える。
本来であれば、周知のように、政争に翻弄された末にやっと白川総裁が誕生したわけであるが、結論から言うと、中央銀行マンとして立派な仕事をしてきたS川氏が総裁でいる限り、心配はないと思われる。
S川氏は以前からも、日本の現状をしっかり把握した上で政策判断してきた人であり、日本の学界やマスコミにありがちな「海外の著名な経済学者が××と言っているから」という欧米すがりつきタイプに振り因されるような人物ではない。
現に同氏は、囲内の一部の経済学者からの「クルーグマンもフリードマンも日本はインフレターゲットなどのリフレ政策を採るべきだと言っているのに、なぜ日銀は拒むのか」という批判に直面した時、「(海外の)だれそれが言ったという話ではなくて、まず自分の頭で考えることが重要だ」と正面から反論している。
このS川氏の反論は当然であり、そうした骨のある人物が日銀の舵をとってくれれば、国民は他に多くの問題があっても、自分たちの年金や預金が紙屑になる心配はせずに済むのである。
過去に同様の局面で人々の年金や預金が紙屑になった例がどれだけ多いかを考えると、日本国民はいかに自分たちが幸運であったかをもっと理解し日銀に感謝すべきだろう。
日銀は民間の借り手不在のなかでバランスシート不況解消には力不足だが、この不況に唯一対応できる財政政策がハイパー-インフレを引き起こす事態はずっと体を張って回避してきたのである。
ただそれでも白川氏が報いのない危機回避の仕事に従事していることに変わりはない。
彼と日銀は今後ともバランスシート不況のメカニズムを理解していない政治家、マスコミ、学者から叩かれるだろう。
我々、円で生活する者は白川氏がその種の圧力に屈しないことを心から祈るしかない。
日本にとってのグローパリゼーションとは「中国の台頭」のことバランスシート不況に端を発する混乱が日本経済を襲った最初の波(過去の波)であったとすれば、実は今もう一つの波(新たな波)が到来しようとしている。
こちらも日本経済を長期間飲み込みかねない極めて大きな波である。
私は、20O5年ぐらいからすでに景気は回復に向かっていると言ってきたし、実際に有効求人倍率や新卒採用を見ても20O5年あたりを境にして急回復している。
設備投資を見ても消費水準を見ても内需拡大が進んでいるとは言いがたい。
なぜ、内需だけが伸びないのだろう内需が伸びない理由の一つはすでに述べたように、企業がキャッシュフローの一部を金融資産の積み増しに回し、家計も過去に取り崩した貯蓄を埋めようとして貯金を増やしているからである。
しかも政府まで「財政再建」を合言葉にして、公共事業の切削に遭進している。
政府から家計まで、みんなが内需を減らす方向に動いているのである。
その結果、昨今の日本経済は異常なほど外需依存度が高まってしまい、またこのことが海外で発生したサブプライム問題で景気に敏感な日本の株が大きく売られてしまった原因になっている。
つまり、欧米やアジアではサブプライム問題で景気が悪化しそうだと感じたら、それらの国々の政策当局が景気対策に動き出すが、今の日本にはまったくそのような気配が感じられないからだ。
結局、日本の「一国財政再建主義」はサブプライム問題の日本経済に対する悪影響を最大限に拡大してしまったのである。
そうした阻害要因があるのは確かだが、果たしてそれだけなのだろうか。
例えば企業の場合、ある程度金融資産を積み増せば「もう充分だ」ということになって、そこから設備投資を再開して内需が伸びてもいいはずなのに、実際はそうなっていない。
なぜ内需が伸びないのか。
私は、その背景には「グローパリゼーション」の影響があるのではないかと見ている。
日本にとってのグローバリゼーションとは何かと言えば、それは「中国の台頭」に他ならない。
中国人はやる気満々で、器用だし、視力もいいし、ハングリー精神も充分に持っている。
そのうえ日本人の数分の一の給料で働く準備がある。
教育水準も低くない。
中国が台頭してきたことで、世界の先進国の合計とほぼ同量の労働力が、一気に世界の労働市場に流れ込んできたのである。
先進国の労働者から見ると、とんでもない競争相手が出てきたことになる。
我々とほとんど同じ体型で、ほほ似たような能力がありながら、我々の10分の一の給料で働く連中が出てきたのだから、こちらのリターンはぐっと減ってしまう。
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